くらしのもよう

この日本での、「基本的な暮らし」ってどのようなものだろう?
私たちの暮らしにとって、基本的に必要なものとは一体なんだろう?

満たされている暮らしってどういうものだろう?
これが最初の、そして最終的に答えを出したい問いです。
「必要」なもの、「基礎的」なものは買えないとまずいし、「必要」なものも買えない暮らしするのは嫌だ。とはいっても、「必要」なもの、「基礎的」なもの、ってどういうものなんだろう?暮らし方って人によってさまざまだから、「必要」とか「基礎的」の意味も人それぞれなのでは?そうすると、それをお金に換算することはできるのかな?同じ金額でも人によって意味が違ってきちゃうかも?
こんな「???」いっぱいの問いの答えを、みんなに普段の生活感覚から導いてもらおう!
というのが、この調査の目的です。

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市民に、「基本的な暮らし」、基本的に必要なものってなんだろう、という答えを出してもらうまでのプロセスは、次の図のような具合です。

①・③・⑤・⑦は、市民が参加して、グループディスカッションをします。
2・4・6は、研究チームが主体の回で、グループディスカッションの内容をまとめます。市民と研究チームは交互に作業をします。
全部で7つの段階ですが、私たちの調査チームでは、2011年度、2以降のプロセスを試みました。
詳しい内容を知るには、それぞれの数字をクリックしてみてください。

①市民:導入グループ

「①市民:導入グループ」では、誰にでも最低必要な「基礎的生活」とはなにか、イメージを膨らませます。
これからの話し合いの指針になるような、「基礎的生活」の定義を決めることが目標です。
私たちの調査チームでは、このグループの話し合いは省略しました。
2010年に、日本の別の研究チームが、同じ調査を行っていて、その定義を借りました。

具体的には、次の定義です。

現代の日本における誰にでも最低必要な基礎的生活は、衛生的、健康的であり、安心かつ安定して暮らせる生活を指す。そこには、衣食住のほか、必要な情報、人間関係、娯楽、適切な働き方、教育、将来への見通しなどを手に入れられる環境が整っていることが必要である。

2. 研究チーム:事例グループの準備

タスク: 「③市民:事例グループ」の準備

1)「事例(モデル)」の決定

市民の話合いでは、「事例(モデル)」の人にとっての「基本的な暮らし」、基本的に必要なものってなんだろう、というのを考えてもらいます。次の架空の個人の「事例(モデル)」を決めました。

石井かなさん



木村けんじさん



女、
32歳、
未婚、
埼玉の浦和、
単身で暮らしている。
かなさんが住んでいるのは、
賃貸住宅。
男、
32歳、
未婚、
埼玉の浦和、
単身で暮らしている。
けんじさんが住んでいるのは、
賃貸住宅。

2)参加者集め

参加者は「かなさん」「けんじさん」と似たような年齢や状況で生活している人たちにお願いします。
その意図は、「事例(モデル)」と同じような状況で生活している人同士の話し合いをしてもらうことであり、自分自身の生活からは距離を置きつつ、しかし、自分自身の生活経験を参考にしながら、実態にあった「基本的な暮らし」、基本的に必要なものを導き出すことにあります。

「参加者集め」にはいろいろな方法がありますが、今回私たちが採った方法は主に、
① タウン情報誌への記事掲載
② 浦和駅周辺の大型ショッピング施設周辺での声掛け
の二つです。

タウン情報誌に掲載したのは下記の記事です。

 

大型ショッピング施設周辺での声掛けは、条件に該当しそうな通行人に対し、調査の趣旨を説明した資料をみせながら行いました。

③ 事例話し合いグループ

タスク: 「かなさん」「けんじさん」にとって、「基本的な暮らし」、基本的に必要なものに含まれるものをリストアップ

1)基本情報

「かなさん」 「けんじさん」
女グループ 男グループ

開催日時
2011年5月29日(日)10時~16時(途中昼休憩1時間)
2011年6月26日(日)10時~16時(途中昼休憩1時間)

場所
埼玉会館(最寄駅:浦和)

参加者
6名(20代・30代) 8名(20代・30代)
研究チーム 研究者2名
研究補助の学生5名 研究者2名
研究補助の学生5名

2)話合い導入部分

まず、話合いをはじめるために、
  • 研究チームの自己紹介
  • 研究プロジェクトの説明
  • 今日のタスクとディスカッションの進め方の説明
  • 参加者の自己紹介
をします。 要するに、
「かなさん」「けんじさん」にとって基本的に必要なもの、をどんどん挙げていってもらいたい、
とお願いします。

3)スケジュール

基本的に必要なものといって、まったくランダムに考えるのは難しいので、およそ次の項目別に、順番に話し合っていきます。もちろん、相互の項目に関係がありますので、あとから思い出したことは随時追加・削除します。

  • 食べもの
  • 日々の活動
  • 休日
  • 特別な日(冠婚葬祭・正月・クリスマス・誕生日)
  • 交通・移動
  • 衣類
  • 洗濯・ベランダ
  • 身支度を整える品やサービス
  • 風呂場
  • トイレ
  • 台所
  • 玄関
  • 住居(間取りなど)
  • 居室部分
  • コミュニケーション手段や家のなかでの楽しみ
  • 電気・ガス・水道(暖房・冷房設備)
  • 保健医療

4)話合いの様子~その風景

参加者が発言した一つひとつのアイテム(量・耐久年数も)は、大きな紙にメモしていきます。みんなで話し合った内容を記録する、共有する意味があります。

5)話合いの様子~「かなさん」についてのやりとり「食べもの編」

研究チーム:早速、まず1番目の議論で、食べものについてから始めたいと思うんですけれど。
生活の中で食べ物、食っていうのは、すごい重要な位置を占めると思うんですが、このイシイカナさんっていう人が1か月暮らしていくのに、食べ物がどんなものが必要かっていうのをまず話し合っていただきたいと思います。
何からでもいいんですけれど、朝ご飯と昼ご飯と夕ご飯、3食必要ですかね。3食は必要ですか。
参加者:はい。
研究チーム:3食必要で、そうするとどんなような食事を取るか、どんな構成か。だから、献立になると思うんですけれど、朝昼晩の献立のイメージ、どんなものを食べるとか。あとは曜日によって、たとえば週末はちょっと違うとか、なんかどんな感じかっていうのをなんでもいいので。
参加者:これあげてもいいですか。
研究チーム:いいですよ。まず、朝食は何を食べますか。
参加者:朝食は、あっ、イメージでですよね。
研究チーム:そうですね。
研究チーム:イシイカナさんだったら何を食べて。
参加者:何を食べるんでしょうね。
研究チーム:食べない方も結構いると思うんですよ。私も食べないし。皆さん召し上がるんですか。
参加者:食べますね。
参加者:私食べない。
参加者:私食べない。
参加者:へー、食べないでお昼までお仕事できるんですか。
研究チーム:結構、大丈夫ですね。
参加者:缶コーヒー飲んだりするとか、朝するんで。
参加者:ありえない。
研究チーム:ありえないとはいえ、あの定義に照らすとやっぱり3食は必要だっていう感じですか。
参加者:食べたほうが理想なのかなって思いつつ、食べてないっていう感じですね。
研究チーム:そうすると、朝、どうですかね。あまり凝ったものは「あー、もう絶対無理」って感じだとすると、パンと何かとか。
参加者:あと、ヨーグルトとか食べる方もいるんで、女性だったら。
研究チーム:全部書いちゃってください。もし、あとで違うってなったら、斜線で消せばいいので。どんどん自由に議論してもらって、どんどんメモしてもらって、「やっぱりあれいらないよね」ってなったら消したり。
参加者:あと、コーヒーとかほしい。
研究チーム:コーヒーは缶なんですか、それとも自分で。
参加者:ヨーグルト食べてるんだったら、入れたりとか。
参加者:入れたりとか家で食べるんだったらね。
参加者:缶よりもね、そういうことですね。
研究チーム:ドリップコーヒーっていうやつですか。
参加者:ドリップコーヒー。
参加者:インスタントか。
研究チーム:サラダは食べないんですかね。
参加者:まあ、サラダ。
参加者サラダですね。あと果物、バナナ、りんご、グレープフルーツとか。まあ、自分が毎日食べてるものなんですけど(笑)。
参加者:バナナ、りんご、グレープフルーツ。
研究チーム:結構食べますね。
参加者:すごいかっちり。
研究チーム:一度にじゃなくて。
参加者:日によって違います。
参加者:毎日同じフルーツだとちょっと飽きちゃうもんね。
参加者:飽きちゃいますね。
研究チーム:パンはどれぐらいですか、分量としては。
参加者:何枚切りとかそういうことですか。
研究チーム:そうですね、6枚切りを2枚とか、8枚切り。
参加者:8枚切り。
参加者:私は6枚を2枚食べないと、昼まで持たないです。いや、お昼が1時からなんで、ちょっと遅いんで。
参加者:すごい。
研究チーム:どうですか、イシイカナさんはどうですか。
参加者:もっと少食の方と思うので。
参加者:あと、チーズも食べます、毎日。
研究チーム:洋食系ですね。
参加者:そうですね。
研究チーム:和食より洋食ですかね。
参加者:和食は食べないです、私は洋食ですね。準備するの大変そうですね。ご飯とお汁ものともう一品とかって、最低でも用意しないと、朝、イシイカナさんはたぶんちょっと準備できないんじゃないかな。
研究チーム:じゃあ、洋食でいきましょう。6枚切り2枚ぐらいでいいですかね、パン。
(つづく)

6)話合いの様子~「けんじさん」についてのやりとり「日々の活動、休日、特別な日編」

研究チーム:続いてですね、食べ物が終わって日々の活動ということで、休日と特別な日、一応さっきの話し合いでは働いてるっていうことにしたので、食事だけまず決めたんですけど。休日は週2回ぐらいで、食事も決めちゃいましたが、どんなふうに過ごすか。あと、年に旅行に行ったりするかとか、あと冠婚葬祭、正月、クリスマスとかをどういうふうに過ごすかとかっていうのを、次に話し合っていただきたいと思うのですけれども。
休日を週2回という設定だったんですけれど、どんなことをして過ごしますか。一応、彼女とデートに行くっていうのは入れたんですけど、あと、どこに行くとか。映画見に行くとか、ただ食事する、散歩。
参加者:まあ、映画。
参加者:映画は行きますね。
研究チーム:映画もどれぐらいの頻度で行きますか。
参加者:1、2か月に1回ぐらい。
研究チーム:1、2か月に1回。
参加者:ひと月に1回ぐらい。
研究チーム:ひと月に1回。それは1回いくらぐらいですかね。
参加者:1800円。
参加者:3Dは2200円。眼鏡が100円ぐらいする。びっくりした。
研究チーム:眼鏡でお金を取られるんですか。
参加者:そうなんです。
研究チーム:じゃあ、眼鏡いらないって言ったらいい。
参加者:言えないけど。
参加者:3Dじゃねえ。
研究チーム:言えないんですか。えっ、そうなんだ。
参加者:見たことないんですか。
研究チーム:ないんですよ。眼鏡かけてる人は眼鏡の上にその眼鏡をするんですか。
研究チーム:確かにそうだ。私、あれもらったんだと思ったんだ、眼鏡。
研究チーム:そうなんだ、かかってたんだ。じゃあ、映画いくらぐらいですか。
参加者:2千円ぐらい。1800円。
研究チーム:眼鏡なしっていう感じで1800円。
研究チーム:映画以外でどこか出かける場所としては、休日土日。
参加者:遊園地とかありますね。
研究チーム:遊園地行きますか。
参加者:行かないか。
参加者:水族館は結構行く。
研究チーム:水族館は、それは一人で行く感じですか。
参加者:いや、デート。
研究チーム:ああ、デート。
参加者:一人水族館は結構さびしい。
研究チーム:魚好きなのかなと。
研究チーム:水族館にどれぐらい。水族館どれぐらいっていうか、水族館とか遊園地とかそういったところを含めて。
参加者:そういうテーマパーク的なところ。
参加者:2か月に1回ぐらい。
研究チーム:ふた月にいっぺん。それが水族館だったり遊園地だったりする感じですか。
研究チーム:ふた月に1回。
研究チーム:いくらぐらいかかるんですか。よくわからないんですけど。
参加者:水族館だったら、1500円とか千円ぐらい。
参加者:単純な入館料としてそうなのかなあ。行ったら何かしらするかな。
参加者:ディズニーおたくだったら一回6千円とかかかる。
参加者:ディズニーおたくだったらな。
研究チーム:水族館や遊園地やディズニーランド的なところだと、平均するといくらぐらいですかね。
参加者:行って帰ってきたら、1万円ぐらいなくなってると思うんです。
参加者:交通費は込み?あと?
研究チーム:交通費は、また次聞くんですけど。でも、旅行とかも含めたいので、そこはもうそういうので1万円だったら1万円でいいと考えています。
研究チーム:2か月に1回1万円ぐらい使うような娯楽をしますか?
研究チーム:土日の娯楽。
参加者:まあ、しますね。
研究チーム:じゃあ、1万円で。わあ、すごい。
参加者:ぜいたく。
参加者:キムラさん、結構使うよね、金ね。

4.研究チーム:価格づけ

タスク: 「③市民:事例グループ」の話合いの内容を整理、アイテムに価格をつける。

1)話合いの内容を整理

地道な作業です。
作業1  話合いのメモをまとめる。
作業2  話合いの音声データを文字化する。
作業3  作業1・2の資料をもとに、アイテムを表にまとめる。
作業4  各種アイテムのうち「食べもの」については「献立」と「献立に用いる食材」に分けて表を作成します

2)アイテムに価格づけ

あくまで暫定的な価格づけです。
話合いのなかで言及されていた価格をヒントに、それに近い品物を探します。
探す方法は、洋服などはインターネットの検索、食品はさいたま市内のスーパーなどです。多くの人がアクセスしやすい、大型のスーパーや量販店の価格を参照しました。
参照した品物・店・価格を、各アイテムにつき二種類ずつ、表に書き込みます。


3)栄養評価

「食べもの」については、「献立」と「献立に用いる食材」に分けてまとめました。
その結果が、栄養必要量をみたしているかどうか、栄養の専門家に評価してもらいました。
今回は、話合いの段階から、栄養学科の学生さんが参加して、先生の指導のもとに評価してくれています。

4)参加者集め

「③市民:事例グループ」の準備、と同様に、参加者集めです。
今回は、タウン情報誌への掲載内容に改善を加えました。

 

⑤市民:確認グループ

タスク: 「かなさん」「けんじさん」にとって、「基本的な暮らし」、基本的に必要なものに含まれるものをリストアップした結果表をチェック

1)基本情報

「かなさん」 「けんじさん」
女グループ 男グループ

開催日時
2011年8月6日(土)13時15分~16時45分(途中休憩あり)
2012年1月7日(土)13時15分~16時45分(途中休憩あり)

場所
埼玉会館(最寄駅:浦和)

参加者
5名(20代・30代)  5名(20代~40代前半)
研究チーム 研究者2名
研究補助の学生3名 研究者2名
研究補助の学生4名

2)話合い導入部分

まず、話合いをはじめるために、
  • 研究チームの自己紹介
  • 研究プロジェクトの説明
  • 今日のタスクとディスカッションの進め方の説明
  • 参加者の自己紹介
をします。

3)スケジュール

研究チームが作成した表をみながら進めます。
アイテムが足りているか、多すぎないか、耐用年数や価格が適当か、を話し合ってもらいます。
項目は、先のグループと変わりませんが、特に議論が必要そうな箇所に重点をおきつつ、次の順番に話し合っていきます。
  • 食べもの
  • 住居
  • 交通費
  • 交際、趣味、娯楽、習い事、旅行・帰省
  • 携帯、インターネット、PC関連
  • 家具、寝具、家事用品
  • 衣類、装身具、かばん
  • 理美容、サービス
  • 電気、ガス、水道
  • 保健医療、文具、その他

最初に話し合う「食べもの」は、献立を確認し、献立改善のヒントとして、栄養に関するコメントを紹介します。詳しくは、話合いの様子で。

4)話合いの様子~「けんじさん」についてのやりとり「食べもの編」

研究チーム:ビタミンB1、B6、カリウム、マグネシウムなどの摂取量をアップするために、真ん中辺ですね。修正アドバイスのこの下線部分のところ、ビタミン、ミネラルの摂取量が全般的に少ないので、野菜類、豆腐、高野豆腐、魚介類などを使った副食を追加し、ビタミン、ミネラルの全般的な量を増やしたほうがいいというのが修正アドバイスです。あと、朝食はコーヒーのみの日があるので、これはモデルとしてあまり適切ではないとかっていうのもあるんですが、市民の方の話し合いということで、栄養士の先生が決めるんじゃなくて、実際の生活とかも考えて。また、食費、食事代とかも考えながら、現実に、かつ先ほどの定義に照らして十分だと思われるような献立をつくっていただくというのが趣旨になります。すでにその事例グループでつくった献立の修正指示を踏まえて直しているのが、この献立表で、赤字のところが少しこの修正アドバイスに沿うような形で修正をしたところです。この修正結果を見て、私たちが修正しているので、「これだとちょっと違うよね」とかあれば、いろいろご意見をいただければと思います。どうですかね、パッと見。結構、朝食がウィダーインゼリーとコーヒーだけとか、あと、会社に行ってパパッと食べるとかっていうので、コンビニのサンドイッチとか、そういったものを想定していて。土日はゆっくりめに寝たいからブランチだよねとかっていうような設定になってます。あと、特徴は結構、毎日外食、毎週外食。
研究チーム:そうです。週末は外食をするっていうことになっていて、職場の人だとか、お友だちと居酒屋に行く。それは安いチェーン店でいいだろうっていうことで。まあ、彼女がいるんじゃないかっていう、けんじさんには。彼女とは、やっぱり安いチェーン店ではなくて、ちょっとしたレストランに行くんじゃないかということで、2種類の場所に金曜と土曜、それぞれ出かけるというふうな設定になっています。あと、間食もちょっと特徴的で、毎日缶コーヒーを飲んでいるんですね。お仕事をしていて、外に営業とか、たとえば外に出るようなお仕事だったりすると、缶コーヒーを飲んだりするとかいうお話でなっていたりします。朝ご飯は、結構女の人とか、これは私たち単身女性と単身男性と両方やっているんですけど、女の人と比較すると、やっぱり男の方は朝ご飯をきちんととっていなくて、大体が少しでも寝ていたいとか、寝坊をするということを前提で、時間がなくてゼリーやコーヒーで済ますというのが、現実の32歳の単身男性に近いんじゃないのかっていうことで、こういうふうになっています。前回話し合ってくださった皆さんも、栄養バランスから考えてゼリーだけっていうのはよくないというのは、もちろん頭ではわかっていて。ただ、現実的な一般市民の方の感覚からいったら、毎食、たとえば朝ご飯をきちんと用意するということが難しいんじゃないのかっていうことで、こういうふうになっています、今は。
参加者:すみません、質問していいですか。ブランチっていうのは、要するに朝食兼昼飯みたいな、そういう意味ですね。
研究チーム:そうです。11時とかに起きてという話が。
参加者:昼食のこと。
研究チーム:ただ、土曜日だけは、ちょっとブランチを食べたあとに彼女と会うので、早めに会ってどこかでカフェ。スターバックスでカフェラテを飲んで、夜ご飯を食べるとか、そんな流れでしたね。
研究チーム:これは缶コーヒーを3本。
研究チーム:だいぶ飲んでいるんです。その代わり、いわゆるお腹にたまるお菓子。ポテトチップスとか、肉まんとか、なんかそういうものは一切とっていなくて、ガムとかコーヒーとか、ちょっとお仕事の合間に、お口に簡単にできるものだけが食べてる感じですね。お菓子は一切食べていないんです、この人は。
参加者:ちょっとなんとなくいいですか。朝食についてなんですけれど、ちょっと個人的な感覚としては、ウィダーインゼリーとコーヒーで済ませるっていうのは、ちょっとどうかなっていうふうには、私の感覚では思うんですけれど。この前の話し合いのときに、なんか男性だったら寝坊しているんじゃないかと。
研究チーム:それも1回ぐらい。
参加者:1回ぐらい。なんかそうしたときに、月、火あたりは自炊で、とりあえずご飯をなんか炊いているんだけど、なんか水、木だけほとんど何もしないでうちを出ているっていうのが、そんなものなのかっていう。私の感覚からしたらちょっと、なんで月、火はちゃんとご飯とトーストを準備しているのに、水、木だけ寝坊して、ウィダーインゼリーとコーヒーなんだっていうふうには感じてしまう部分があるんですけれども。
参加者:仕事とかによるかもしれないですね。生活習慣ですかね。たとえば日曜日とか、結構遅くまで遊んでいる方は、月曜日がつい寝坊がちになるでしょうし。実際、そういう会社の人間を何人か知っています。あるいは、月、火は割とちゃんと休んでいるので気合が入っているけど、水曜日あたりにちょっと疲れが来て、寝坊しちゃうとかはあるかなとは思うんですけど。結構個人差は、ここはあるかという気がします。
研究チーム:そうですね。個人差の大きい話で、かつ難しい話で、基本的には働いているか、働いていないかってことを問わない生活費ってことを、想定している。どんな人にでも。つまり、今は働いているけど失業して、また3か月後ぐらいに働くかもしれないとか、そういう人も全部含めて。ただ、決まっているのは、32歳ぐらいの未婚の単身男性。でも、そういう人を設定すると、事実上ほとんどの人は働いているだろう。あと、話し合いのときも皆さんそれぞれの経験をもとに話し合っていただくので、なんかこういうような傾向になっているんですが。 他方で先ほどの話したちょっと長めの定義。基礎的生活の定義がありますので、自分の生活と、あと、周りの方たちの生活とかももちろん反映していただいて大事なんですが、その定義と両方考えながら。別にこれでも私たちとしては全然かまわないんです。ウィダーインゼリーで、栄養士の先生はどうかっていうんですけど、それはいいっていうふうに言えるので。
参加者:自分の定義からいえば、この朝食ってめちゃくちゃいいほうだと思いますよ。普通の一般的な会社員からでいうと。
参加者:家で食べている人。
参加者:この時点ですばらしいなと思うし。
参加者:コンビニでパンを買う。
研究チーム:どんな感じですか、そうすると朝ご飯は?
参加者:水、木がずっと続いている。
研究チーム:土日はブランチしますか。朝ご飯。
参加者:土日なんかむちゃくちゃいい加減な感じになってくるし。
参加者:ブランチ、いい言葉ですね。
参加者:よく見ると、要するに朝起きられなくて、昼ぐらいにラーメンを食ってなんでしょうね。
研究チーム:内容はそう。
参加者:内容はそんなあれで、ブランチとめちゃめちゃおしゃれな言葉。
参加者:全体的に見ても、この食生活をずっと続けていたら太らんだろうなと思うのです。これは、この生活習慣をずっと続けていると。週1回飲み行くぐらいのものでしょう。土日、彼女と飯を食うぐらいなもんでしょう。これはむちゃくちゃ健康的な、自分の感覚ではですよ。
研究チーム:缶コーヒーとかはどうですか。
参加者:缶コーヒーは多いですね。缶コーヒーは確かに多い。
参加者:缶に限んない。普通に会社でコーヒーを入れて飲む。普通に入れたら3杯分は、もしかしたら3杯ぐらいかもしれない。
参加者:健康的なとかっていう、この定義からいうと、あってね。月、火みたいなのがずっと続かんとあかんわけですね。
研究チーム:そうなんです。ただ、これは確かに健康的だったりしたほうがいいんですけど、実際問題、単身で暮らしている男の人。現実的かどうかということもとても大事で。あと、たとえば栄養士の人だとか、専門家の人がこういった生活設計を立てると、ものすごく理想的な献立が出てくるんだけども、それは現実的かっていう観点から見ると、現代の日本で。特にここはさいたま市で生活していると考えているんですけど。人にとって、現実的なのかっていうと、なかなか現実としてはもう少しっていう。人の生活って社会的なものだったので、そういった観点も込みでかまわないので。栄養バランスがパーフェクトな献立がほしいのであれば、それは栄養士の方に聞けば済むだけの話なので、そこはそんなに意識しない。ただ、栄養バランスがこれだとあまりよくないとかっていうのも、もちろん。
参加者:現実的なことをいうと、朝、自炊がなかなかできないんじゃないかと思います。前の日の晩につくったものを次の朝に食べるということで、朝ご飯も夜のうちにつくっちゃうとか、朝、食べるために。そういうのだったらできる。朝からご飯炊いたりとか、それはなかなかできないけど、現実的に。
参加者:これそういうわけないでしょ。朝、別に自炊しているとは限らんわけでしょう。
参加者:まあ、それは。
イワイ:たぶんご飯は、結構多めに炊いて、冷凍する。
参加者:冷凍とか、それはパターンですけれども。
参加者:どっちかっていうと、個人的には金曜のコンビニでサンドイッチ買ったのっていうのが、1週間ほとんどずっと続いている。たまにサンドイッチじゃなくておにぎりになっているので、前の日の帰りにコンビニで買ったおにぎりかなんかを、次の日の朝に食べて出かけるっていう感じになるんじゃないかと。
参加者:結構、コンビニでも帰りに寄ることが多いですけど、そういったことをされているサラリーマン的な人も、朝食用のパンみたいなのを買っているわけでしょう。たぶん、そういうのが現実的じゃないかなと。
参加者:平均的にばらかしてみると、こんな感じになりそうだっていう想定ですからね、要は。
研究チーム:そうですね。で、自炊をほとんどしないっていう想定になると、あとで品目リストを見ていただいたときに、電子レンジとか、炊飯器とかそういったものを、今のところに入れているのですが。逆に言うと、そういうのが全然必要なくなるというか、ほとんど自炊しないで。それはそれで非現実的なのか、どうなんですかね。その辺もちょっとよく私はわからないんですけど。
研究チーム:この人のときは、確かご飯はさっきお話に出ていたみたいに、炊いてまとめ炊きをするっていうことだったわけですよ。だから、最低限炊飯器と電子レンジは、まとめ炊きをして冷凍したものを、冷蔵か解凍するレンジは必要というので、すごく安いものですけど、二つ家電を買ったんですけど。あと、すいません、さっきの週に1回だけしか飲みに行かないのは、少ないっていう。
参加者:私に比べれば。普通の常人はこんなものなんでしょうけど。
研究チーム:前回のお話し合いでも、週4回だろうっていう人がいらっしゃったりして、それはちょっと激論になりまして、週1回に落ち着いたんですね。
参加者:いえ、独身でいますとね、どうせ晩飯食うわけです。そしたら、なんかその辺の仲間と飯食って帰るケースが、実は多い。自分もそれを望んでいる部分もあるんですよね。そういう部分は多い。まあ、一回は少ないかなというのは。
研究チーム:この方、夕飯は、週に2回は、定食屋とかラーメン屋みたいなところで、5、600円前後の安いものを一人で食べる。で、週に1回は、そういった友人だとか、同僚と一緒に、居酒屋でご飯を兼ねて飲むわけです。あとの2回は自炊。そして、残りが彼女と外食という感じの。
研究チーム:あと、土日にちょっとつくる感じですかね。
参加者:結構、一人暮らししてると、朝食が毎回変わるんじゃなくて、同じものを1週間食べてるということが多いんじゃないですか。
研究チーム:うん。それがこの方式。30日分のレシピができれば、最初の1週間トーストで、次の1週間ご飯でってできるんですけど。これ、1週間分を出して、それをかける4するやり方してるので、ちょっとバラエティに富んじゃってたりとかしてる。だから、組み替えて、実際にはご飯が連続してということも当然想定できると思います。
参加者:まずは、コンビニとか、何つくるか考えてる余裕がないですね。
参加者:そうですね。
参加者:時間の余裕もないし、体力的な余力もないし。
参加者:とりあえず、なんか食べにくるという。
参加者:よくドラマとかで、口にトーストをくわえて、服着てみたいな、あんな状態に割と近いかもしれないです。あるいは、本当何も食わないで、会社でちょっと早く着いて、食べたりとか。
研究チーム:そういう方がすごく多かったんです。
参加者:そうですね。会社で食べるのもね、それはありますよね。
参加者:割とオーソドックスかもしれませんね。
研究チーム:行きに買ってきて、それで食べるとか。
研究チーム:じゃあ、そうすると、結構このあたりでいいかなって。
参加者:結構頑張っていると思う。
研究チーム:これ以上。
参加者:これ、優秀ですよ。
参加者:わかんない。そりゃそうだ。
研究チーム:そうすると、間食のところの、コーヒー・缶コーヒー3本とかのあたりが。たとえば、もうちょっとシュークリーム、それからプリンを食べるとかっていう人もいれば。
参加者:そうですね。
参加者:この辺はわからんな。たとえば、タバコ吸うやつもいますしね。
研究チーム:そうなんです。
参加者:わからんな。
研究チーム:ポテトチップスとか、つまみのなんだろう。おつまみ系とか食べないで。この人、すごいガムかんでるなと思って。
参加者:あんまり男は食わない感じですけどね。私は39歳で、30前後ぐらいのやつを見てても、その会社なんかでも、そんなバリバリバリバリ食うてる。
参加者:会社ではね。
参加者:間食または夜食となってますかね。
研究チーム:そうそう、確かそう。会社だからあんま食べれないから。
参加者:女の子はね。
参加者:食べても。
研究チーム:一覧表にしていると、缶コーヒーがすごい目につくんですけど。
参加者:ものすごいやってるやつは、なんか食ってますよね。私じゃないけど。

5)話合いの様子~「かなさん」についてのやりとり「衣類編」

研究チーム:そうしましたら、衣類のほうに移りたいんですが、礼服を前のグループでは3万円ぐらいものって話だったんですけど、調べると結構安くてありまして、セシールとかなんて1万9千円とかでアンサンブル、ジャケット、ワンピースの2点セットとかいうのがあるんですが。たとえば19,900円とか2万1,000円ぐらいのものに替えても。
参加者:いいんじゃないですか。
研究チーム:これ、19,900円にしますか。じゃあ、19,900円で。そのほか、ちょっと着る物が、夏用も冬用もあわせてざっと見ていただきたいんですが、結構買う場所をルミネとか、伊勢丹あたりとか、なんかそういうところを。
研究チーム:この間は大宮ルミネっていうのを。あとは大宮のマルイ、伊勢丹、その辺で買って、ルミネ。
研究チーム:そうですね。調べてみると、スカートとかも大体5千円ぐらいのものっていう話で入れたんですが、短パンとかはうちではくものはユニクロ。基本的にセールの値段っていうのは入れないようにしていて、すべての人がアクセスできるわけではないので。ブラウスとかカットソーとか、もうちょっと意見では5千円ぐらいのものっていう意見があったんですけど、5枚目のところとかで。今、3,990円、2,980円の無印とかローリーズファーム、安いところを入れているんですが。
参加者:なんか、たぶんお勤めですよね。普通に制服がない限り、たぶんきちんとした洋服、スーツっていうか、スーツまでいかなくてもスカートとかブラウスとかって、結構、ちょっとちゃんとしたものは何枚かあったほうがいいと思うんですけど。だからやっぱり1万円ぐらいとかしちゃう。
参加者:都内にお勤めだと、もうちょっと単価高そうなものを着ているような。
参加者:遊び着だったら、全然安いと思うんですけど、仕事で着るものって、やっぱり…
参加者:仕事着はもうちょっと単価高そうな気が。
参加者:2、3万ぐらいすることもあると思うんです。
研究チーム:やっぱり表に反映させるのがちょっとできてなかったんですけど、前回の議論もやっぱりその話が出てて、ちょっと高い1万円とか1万5千円ぐらいするブラウスを1枚と、安いカジュアルでもいけるブラウスを1枚、半袖も長袖もそれぞれそういう感じで、必要なんじゃないのかっていう。あと、だけど半袖は夏で、ちょっと回転が速くなるから枚数を少し増やすとか。そんな感じですかね。
参加者:スーツとかジャケットは2年しか着ないかなっていう感じがするんですけど。24か月なので、これを…
参加者:月数ですよね。耐用月数をちょっと上げてもいいかもしれないですけどね。
参加者:それで、少し高い。
参加者:高いものを、いいものを長く着たほうが。
研究チーム:4年ぐらいにしても大丈夫ですか。4年だと長い、3年ぐらい。
参加者:2シーズンしか着ないのは、ちょっと短過ぎる気がするんですけどね。
参加者:そうですね。2シーズンは短いですよね。
参加者:結構着る。やっぱり…
参加者:4年ぐらい、すぐ着ちゃうような気もする。
参加者:着ちゃうと思います、普通のね。
研究チーム:じゃあ、4年ぐらいにして。
研究チーム:もうちょっといいやつを買う。
参加者:そうですね。もうちょっとビジネスモードというか。これだとちょっとやっぱり学生さんみたいなところが多いかな。ブランドも、たぶんルミネとかは若めだから。
参加者:32歳だと。
参加者:32歳だと。
研究チーム:じゃあ、どんなところを想定したらいいですかね。価格を調べるに。
参加者:パルコとか、マルイもありかな。ちょっとルミネとかだと、ちょっと若めの気がするんです。
研究チーム:戻ってごめんなさい。シャツなんですけど、前回そういう議論で1枚は高めで、1枚はカジュアルな感じでってお話だったんですけど、そんな感じでいいですか。そのときの値段なんですけど、安いのは、ここでたとえば4ページ目だと、一番下の襟つき長袖シャツだと、安いのを2枚、これだと関係されるのですが、ではなくて、安い3千円ぐらいのを1枚カジュアルで買って、もう1枚は高いとするといくらぐらいの。
参加者:8千円とか9千円とか。
研究チーム:8千とか9千円、1万円ぐらい。
参加者:やっぱり、2シーズンぐらい着ないかな。
参加者:1万5千円はしなさそう。
参加者:1年しか。
参加者:5千円だとちょっと腰引けちゃう。
参加者:シャツに1万5千円は。
参加者:シャツ、上だけで。
研究チーム:その場合…
参加者:8千円とか、8、9。
研究チーム:カジュアルのシャツは耐用年数1年ですけど、っていうふうには話だったんですが、どれぐらいですかね、持つ。
参加者:いいやつだったら、やっぱり2シーズンぐらい着ないととかって。
参加者:いいやつは、2シーズンは。
参加者:長袖はずっと着て、1年中着てはいないと思うので、そうしたら2年ぐらい。
研究チーム:じゃあ、2年。半袖ブラウスも、この表だと安めのものを3枚買っているのですけど。ではなくて、高いものを1枚、お仕事でも着れるような。どうしよう、ちょっと高めのものを2枚にしますか、それとも。
参加者:半袖のシャツですか。
研究チーム:はい。あるいは、枚数自体ももし3枚だったりとか、もしあれば。
参加者:週5日仕事に行ってるとしたら、仕事で着るほうが多いわけですよね。だから、そうしたら高めのほうが2枚とか、もしくは枚数を増やすとか。
研究チーム:それは大体いくらぐらいの?
参加者:確かにシャツってわかんない。カジュアルでシャツってそんなに着ない。ブラウス?
参加者:ブラウスは、家では着ない。
参加者:アイロンとかにもいるしね。
参加者:アイロンがいるか、いらないかとかによっても。
参加者:だから高いの2枚とか、もしかしているかもしれない。
研究チーム:安いのをそもそも買わずに。
参加者:いらなくて。
研究チーム:そんな感じですか。
参加者:安いのはカットソー、Tシャツが別にあるから。
研究チーム:わかりました。高めっていうと、いくらぐらいのものを。
参加者:半袖シャツだと7千円。
研究チーム:7千円ぐらい。
参加者:7千円とか、8千円とか。
研究チーム:これも、買うとしたらお店はパルコとか、マルイとかですか。
参加者:マルイとかかな、高めだったら。カジュアル系はルミネとかいくかもしれないですけど。お店的に、あとデパート。もし都内に出たときとかに。
研究チーム:別に埼玉で買う必要はないので。
参加者:池袋だったらあるし。
参加者:池袋いろいろありますよね。西武とかもあるし。
参加者:デパートとかのほうが…
参加者:多そうな感じですね。お勤めしてると。
研究チーム:それで、耐用年数はもうちょっと上げていいと。
研究チーム:ちょっと上げちゃっていい。2年でいいですか。2枚にして。
参加者:カットソーも少し値段が高いものだったら。
研究チーム:使いますよね、ビジネスとかに。
研究チーム:結構値段を調べると、無印とかはすごい安いんですけど、一方でピンキリですよね。高いか安いなんですよね。高いのも1万円超えるんですよ。1万5千円ぐらいが結構普通多くて、ネットとかで調べてると。結構、たぶんセールとかでもうちょっと安くなるんですよ。
参加者:買っているイメージとして7、8千円な感じがするのかもしれない。
研究チーム:そうなんです。たぶんそうなんです。
参加者:セールで買っているようなイメージが。
参加者:大体セールだもん。
研究チーム:普通の値段で見ると1万5千円、結構高めで、去年のグループで同じのやったんですが、そのときもみんなユニクロでいいっていう意見だったんですよ。基礎的な生活だったら全部ユニクロでいいっていう意見で。
参加者:最低をどこまで考えるかですよね。
参加者:最低だと確かにユニクロで充分なのだけど。
参加者:やっぱり仕事に行くときにユニクロはないと思うんですね。
参加者:わりと余裕ありそうな生活してる。
研究チーム:そこも本当に微妙で。人間関係とかに差し障る、影響するんで、何を着るかとか。でも基礎的だとか。感覚で折り合いをつける。
参加者:そうですね。そうするとなると、仕事をするっていうことだと、やっぱりユニクロだけでは駄目。
研究チーム:それで大事に着るっていうので。
参加者:そうですね。長くだから。
研究チーム:じゃあ、そんな感じでちょっと、もうちょっと違う、調べさせていただいて。あとは下着類なんですけれど、下着もやっぱり高い、安いが。
参加者:勝負下着が。
参加者:勝負下着が。勝負下着のウェイトが高い。
研究チーム:勝負下着が必要だという意見がありまして、ちょっとトリンプを入れたんですけど。普段づかいはピーチジョン、アモスタイルを入れて。あとサニタリーショーツっていうのは、この間出てなかったんですけど。こういうのは必要?
研究チーム:最近どうなんですかね。
参加者:使ったほうがいいですかね。
研究チーム:どうですか。
参加者:一応、普段のとは分けるかな。
研究チーム:じゃあ、一つぐらい入れておいてもいいですか。
研究チーム:耐用年数は?
参加者:下着だもん、1年持つ。
参加者:でも、そんなにしょっちゅう。
参加者:使うもんじゃないから。
参加者:1年に。
研究チーム:じゃあ、12か月。

6.研究チーム:最終的な生活費の算定

タスク: 「⑤市民:確認グループ」の話合いの内容を整理、アイテムに価格をつける。
「かなさん」「けんじさん」の最低生活費を算出する。

1)話合いの内容を整理

再度、地道な作業です。
  • 作業1 話合いのメモをまとめる。
  • 作業2 話合いの音声データを文字化する。
  • 作業3 作業1・2の資料をもとに、アイテムをまとめた表を修正する。
  • 作業4 各種アイテムのうち「食べもの」については、「献立」と「献立に用いる食材」に分けて表を作成し、再度栄養チェックをしてもらいます。

2)アイテムの価格づけ修正

話合いのなかで言及されていた品物・店・価格を参照して修正します。品物・店・価格を、各アイテムにつき二種類ずつ、表に書き込みます。

3)栄養評価

「食べもの」についての「献立」と「献立に用いる食材」に関する表を修正し、再度、栄養の専門家に評価してもらいました。
今回も、栄養学科の学生さんが、先生の指導のもとに評価してくれています。
評価の結果は、「献立」に反映させ、「⑦市民:最終確認グループ」へのアドバイスとして用います。

3)参加者集め

「⑦市民:最終確認グループ」の参加者集めです。
今回は、これまでタウン情報誌をみて参加を申し出てくれていた方を中心に、参加者集めに苦労した結果、「③市民:事例グループ」に参加してくださった方にも声をかけました。


⑦市民:最終確認グループ

タスク:
「かなさん」「けんじさん」にとって、「基本的な暮らし」、基本的に必要なものに含まれるものをリストアップした結果表を最終チェック

1)基本情報

「かなさん」 「けんじさん」
女グループ 男グループ

開催日時
2012年1月7日(土)10時~12時
2012年2月18日(土)18時~20時

場所
埼玉会館(最寄駅:浦和)

参加者
5名(20代・30代) 5名(20代~30代)
研究チーム 研究者2名
研究補助の学生4名 研究者2名
研究補助の学生3名

2)話合い導入部分

まず、話合いをはじめるために、
研究チームの自己紹介
研究プロジェクトの説明
今日のタスクとディスカッションの進め方の説明
参加者の自己紹介
をします。

3)スケジュール

研究チームが修正した表をみながら進めます。
アイテムが足りているか、多すぎないか、耐用年数や価格が適当か、特に、前回から修正した点など、議論が必要そうな次の箇所に重点をおきながら話合いを進めました。
表には、これらのポイントに黄色いマーカーをひきました。

  • 食べもの
  • 住居
  • 交通費
  • 衣類、化粧品
  • 電気、ガス、水道
そして、最終確認として、さいごにあらためて全体をみてもらう時間をつくりました。
  • 必要なモノやサービスが抜けていないか
  • 不要なモノが入っていないか
  • 合計価格から見て、最低必要な基礎的生活費として妥当か
これらの観点から、最終チェックをしてもらいます。

すでに同じ方法で調査した結果や、男女互いの結果を提示し、間での「基礎的生活」の範囲の違いについてもチェックします。


4)話合いの様子~「けんじさん」についてのやりとり「交際費編」

研究チーム:それからあと、贈与金というのは、この年齢なので結婚式とか、あとお葬式・お年玉で、帰省するときにお土産とか持ってくかもっていうので、8万5千円、年間です。それで、それを12か月で割ってる。それから、家族とか、友だちへのプレゼント代。たぶん母の日・父の日とかも含めたようなプレゼント代で、1万5千円を12か月で割ってる。それから、リフレッシュ代っていうのは、これは趣味は人それぞれなので、右に書いてあるように、たとえば「新聞・雑誌・本・漫画、レンタルCD、DVD、映画に行く、美術館に行く、サッカーする」とか、なんかいろんな趣味のもので月1万7千円ぐらい。 それから、先ほどの飲食費にあった交際費、月4回5千円の飲み会と7千円の居酒屋と1万円の外食で5万8千円で、計8万9千円という感じなんですが、先ほどのご意見だと、この5万8千円が5万3千円になるかなっていうような話でした。ここ、ちょっと金額が高いので、これで妥当かどうかっていうのをちょっと最後話し合っていただければと思うんですけど。いかがでしょうか。
参加者:確かに高え。
参加者:これ、交際費、怖いね。
参加者:大いにその人のライフスタイルが反映されるところでもあるし。
参加者:ありますね。
参加者:自分に照らし合わせてみると、こんなに飲み会行かないなとか。
研究チーム:不自然なのは、おごってあげるばっかりで、おごってもらうを入れないんですよ。
参加者:それ、そうですね。確かに。
研究チーム:それは入れられないんです、この調査のやり方だと。
研究チーム:入れられない構成なので。
参加者:あれば単純に割る2にしちゃうとか。
参加者:割る2。
研究チーム:でも毎回おごってるわけではなくて。
参加者:そのイタメシとデートは、2分の1にしておいて。
研究チーム:そうですね。彼女とのときは毎回おごっていて、お友だちと飲んだときは割り勘してるんです。その彼女との分は、全部割り勘にしますか。2か月に1回だけごちそうするっていうのを除いて。
参加者:そうですね。
研究チーム:これは土曜日の外食が一人3,500円の2人分で計算しているんですけど、3,500円でいいですかね。
参加者:なんかもうちょっと低くしてもいい。
研究チーム:もっと削る?
参加者:なんとなく、お金がないときに一番削られるのってここだよ。
参加者:そうだ。
参加者:そこが、今、一番削っているとこ。
研究チーム:どうですか。埼玉の。
参加者:彼女ってお金かかりますよね、やっぱりね。
参加者:何年も。
参加者:意味深な表現ですね。
研究チーム:あと、この前々回のグループ、2回分のときには、一応この人と交際するとか、なんかこの辺を相当程度加味してこうなってるんだと思うんですけれど。
参加者:その彼女がどういう彼女かっていう想定で変わるわけですよね、ここね。
研究チーム:そうおっしゃっているようですけどね。
参加者:彼女が学生さんだというと、またこの金額になるかなということもあるし。
参加者:もっと安いと思う。
参加者:ただ、同じぐらいのところでしっかり自分で稼いでるっていえば、基本は割り勘になってくるとは思うので。
参加者:30代だったら、つき合う人もそれなりの人になるから、そんな。
参加者:おごったりしない。分別のある女性とつき合っているから。
参加者:30歳ぐらいで普通にOLやってる女性とつき合ってます。収入的には2歳分ぐらいな差はあるけれども、極端な差はないというぐらいですかね。
研究チーム:妄想にしては具体的な。あと、ちょっと周りの人とかも参考にして、自分のことではなくて、あくまでこの彼のことなので。
研究チーム:キムラケンジさん、埼玉で暮らして。ひとまず、この7千円っていうのはなしにしましょうか。割り勘するっていうことでいいですか。
研究チーム:割り勘にしますか、両方とも。
参加者:そうですね、割り勘でいいような気がします。
研究チーム:その値段を3,500円でいいのか、それとももう少し安くするのか、あるいはほかですね。
参加者:なんかおそらく前回は、たとえば会社の人と飲みに行く、同僚と行くとか、彼女もそうなんですけど、それを断らないぐらいの収入を持ってるんでは、なんとなくそっちが前提な話だと。
参加者:毎週職場の飲みも行って、彼女もおごってみたいなことができる人っていう。
参加者:なんとなくそういう高い人物像を設定しちゃったんだよね、そのときね。そこまでいいんじゃないか。
研究チーム:2回目のディスカッショングループで、当然、若干修正が入って、額は少しは下がってるんです。ただ、それでも1か月の生活費で計算すると250,177円っていう。
参加者:月4回7千円っていうのは、とりあえず割り勘で、おごる。
研究チーム:3,500円でいいですか。
参加者:おごるの月1ぐらいだったら、許容範囲かな。
参加者:7千円。
研究チーム:じゃあ、ここは3,500円にして、さっきの豪華なディナーみたいなものをふた月に1回。
参加者:1か月に1回ぐらい。
参加者:1か月。別に月1でもいいんじゃないかな。
参加者:月1でもいいですよ、これぐらいだったら。給料日にはおごるみたいな。
参加者:ここが割り勘なら。居酒屋の割り勘なら。
研究チーム:ここは1万円のままで、その代わり毎週土曜日の分は割り勘でっていうことでいいですね。
参加者:割り勘で。
参加者:ちょっと聞いてみたいことが。ご飯というか、なんか週末お出かけしてっていうような意味合いも含めてだったら、これぐらいの金額になるんじゃないかなっていう。
研究チーム:交際する人と。
参加者:確かにそうですね。
研究チーム:じゃあ、3,500円とします。
研究チーム:4万4千円になる。いいですかね。あと、リフレッシュ代っていうのもどう出るのか。
参加者:なんか微妙な金額ですよ。積算根拠が。
参加者:そもそも新聞も入ってんですよね、この中。
参加者:新聞入っちゃうとちょっと。
研究チーム:そうです。新聞・雑誌、ほとんど買うのも、どっか映画とか見に行くとか。
研究チーム:全部これです。
研究チーム:そう、ちょっとしたもの全部。
研究チーム:人によって新聞買う人もいれば、買わない人もいたり、CDたくさん買う人もいれば、スポーツとかにお金費やす人もいて、中身は決められないのでこういうリフレッシュ関係。
参加者:1万7千円、なんで。
研究チーム:どう使うかはともあれ。
参加者:20万、そんなもんかな。
参加者:妥当は妥当なんだよね。
参加者:高いか、安いかわからない。ならすのが難しいですよね。
研究チーム:きれいにならすのが、ちょっと。道具とかね。
参加者:こうやって見ると、ちょっと恐ろしい金額だけれども。
参加者:年間で20万、そんなもんじゃないかな。ほか、なんとも言いようがないよな。
参加者:こうして見ると恐ろしいな、ほんとに。
研究チーム:1万7千円、いいか悪いかよくわかんないって感じですかね。
参加者:それぐらいかなとしか。
参加者:これは人それぞれとしか言いようがないので。
参加者:どういうふうに進めたのか忘れちゃったけど、これを信じるしかない。
参加者:毎年10万、20万の楽器買いますみたいな人とか。
研究チーム:たとえば、ゴルフをする人なんかはゴルフの道具一式、最初すごく高いけど、ずっと持つから月割りでこんだけとか、いろいろなんです。釣り道具とかもあるし。
参加者:この人はおたくだったら、もっと違うとこ削って、ここにつぎ込むっていうような。
研究チーム:なるほど。
参加者:交際費なんか使ってられるかみたいな。
参加者:自分が割とそう。
参加者:なんか僕はこのリフレッシュ代と交際費が、こういう関係にあって、交際しないとこっちが高くなって。
研究チーム:なるほど。
参加者:だから、ここはこの2つに分けて考えられると。
研究チーム:もしここの2つのカテゴリー一緒に使って、人によって交際でリフレッシュする人もいれば、引きこもって。
参加者:そんな感じです。あとはスタイルで。
研究チーム:そうですね、なるほど。
参加者:じゃないかなと僕は思うんですよね。
参加者:それはいいアイデアかもしれないな。
研究チーム:それ、ちょっと検討してみます。
参加者:それで、交際費4万4千円と足して、月6万か。それぐらいか。
参加者:それぐらいになると思いますね。

5)話合いの様子~「かなさん」についてのやりとり「最終チェック編」

研究チーム:価格を見て、この内容が必要なものとして自分を防御し、要求できる品目か?
貯金を考えていない。貯金を月3万するとしたら23万。税金も考慮していない、手取りとして考えている。給与としては支給額で28,9万は稼いでいないとならないことになる…
研究チーム:生活の方は適正。賃金の方が低いのでは、と考えるべきではないか。何も持っていない状態から積み上げる。持っている状態から考えるのとは少し違い、高く出てしまう。裸一貫からはじめている。でも、最低賃金や生保基準に反映させることを考慮すべきだろうか。また、若干、現実からかけはなれているだろうか。 お金だけをみるのではなく、モノから積み上げる。額面から考えないでほしい。みてみると、品目が落ちているし、自分が所持している洋服の数と比べても少ないはず。収納の家具(食器棚や洋服だんす、籠など)がない。細かい落ちがかなりあるはず
参加者:これで暮らせるのか実験してみたい…笑
参加者:時計を付け足すべきでは?腕時計と携帯のみ。
参加者:ニトリで1000円前後のもの、耐用年数60カ月くらいで。
研究チーム:税金や年金もこれには入らない。
研究チーム:そう考えるともっと必要なものをある。薬ももっといる、イヤホンもない、本とかはリフレッシュの中に入っている、年賀状もださない。冠婚葬祭費のお金(出産祝いもあるんだけど、袋代がない。これは文具にいれるべきではないのか。
参加者:封筒代として100均の袋、3つ。
参加者:家具をいれるべきでは?収納のところに突っ張り棒をかけて、衣装ケースをいれていた。
参加者:衣装ケースがあればいい。突っ張り棒はついてるはず。ニトリで安いやつ。4箱。耐用年数は5年。
参加者:カラーボックスがひとつあってもいいはず、本や小物をおくもの。ニトリの安いもの。60カ月。
参加者:食器をしまう場所は台所にある収納。かごのようなもの、ボールのようなもの?
研究チーム:電子レンジは冷蔵庫の上。炊飯器は床でよいか。
参加者:テレビは床置きの人が多い。テーブルがあるのにテレビが床置き?
研究チーム:テーブルはローテーブル。
研究チーム:化粧品や医薬品はティッシュペーパーのはこや牛乳パックでなんとかする…。化粧品は化粧ポーチ。化粧水等はカラーボックスに収納。
参加者:台所で使うワゴンがあると便利。自炊しているので、食材の置き場所が必要。安いもの。ニトリで買える。耐用年数60か月。 Back to Top

話し合いの結果まとまった、「必要なもの」「基礎的なもの」を表したのが、次のリストです。

「かなさん」 「けんじさん」
品目リスト   献立リスト   食費リスト
品目リスト   献立リスト   食費リスト

それぞれのリスト、具体的でかなり長いものです。
このリストにあるものを揃えれば「基本的なくらし」ができるのでしょうか?
リストにあるものを一つ一つ取り揃えて、ゼロから暮らしてみたいです。

話合いをやってみてあらためて思うのは、定義に照らして架空の人の最低限必要なものを積み上げる難しさであり、暮らしの多様性です。
私たちの実際の暮らしは、手元にある、見込める生活費の範囲で営まれます。
もちろん必要なもの、欲しいものを得るために労働量を高めることもできますが、直ちに行うことは難しいでしょう。
ひとが、ある程度決まった収入の範囲内で、必要なものを購入しようとするときの判断基準は、おそらくこの研究で用いた定義ではないでしょう。
それぞれの暮らしの、生き方の価値観が反映されるはずです。
各自の生活スキル、嗜好、つながりはさまざまで、人びとの「くらしのもよう」は計り知れません。

さらに、私たちの実際の暮らしを基底するのは、各自の見込まれる収入や貯蓄だけではありません。生活する場・時間を取り巻く環境、社会にも大きく影響されます。
社内食堂にアクセスできる人は、そうでない場合より1.5倍昼食費がかかるという実感を話してくれた人がいました。
無料で設備の整った住居が、どの人にもアクセス可能な程度用意されているのならば、家賃さらには家具・家事用品ですら自前で用意する必要はありません。
民間の生命保険だって、公的な医療サービスが十分であれば・十分だと思えば、加入しなければならないと思うのでしょうか。
一方で、品目リストには、貯金もなし、保険料、税金は含まれないのです。
ですから算出された数字は、単純に、私たちが普段手にする生活費、賃金と比較できる性質のものではないのです。

☆「くらしのもよう」をさらに考える、番外編もご覧ください。

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話合いのやり方が分からない??

話し合いの意図、基礎的って何なのか、分からない??という声が、話合い終了後にあがった。「現実的に考える生活」と「定義に照らし合わせて考える生活」の間で揺れたり、仕事によってずいぶん違うのではないかという疑問があったり、判断がつかないときは沈黙してしまう。
参加者間で「基礎的」の概念が共有されないまま議論がスタートしてしまった感がある。反省になりますが、「基礎的」であることの意味を、少し話し合ってから具体的な項目の話合いに移った方がよかったかもしれない。

悩む~事例の膨らませ

はじめに提示する情報はわずかで、居住スペースについても決めていない。話合いのなかでも、先に食べものについて議論しながら、ケーススタディをして、どんな人か決めていく方法をとった。働く人と決めてしまえば、働かない場合はどういうことになるか、という意見を付加してもらうようにした。
ある参加者の意見では、
「派遣社員は、交通費の自分持ちが多い。現状では,交通費や健康診断が充実した常勤職に就くのは結構大変だと思います。今回のケースでは常勤職が前提になっていった、途中からそんな雰囲気だったため、洋服などの金額があがったのだと思います。私的には若干贅沢な気がします。」

研究チームの誘導はなかったか?!

研究チーム自身、ディスカッションの大半は誘導に終始してしまった気がした。特に、事例グループは、議論しなければならない項目が多く、時間に追われると誘導してしまいがちになる。

参加者から「トータルの額を下げなきゃいけない流れ(空気?)を感じる」といった趣旨の発言もあった。
また、もう少しうまい議論の導き方もあったのではないか。たとえば、週4日飲みに行くという意見があった時に、そうでもないなという顔をしている人がいたら、「私は週1でもいいのでは、と思いますが、そういう意見の方はいませんか?」と言ってみるとか。
しかしこの問題は、研究チームの能力のみの問題ではなく、むしろこの手法に基づいた調査設計の問題ではないか。本当にそれが可能だとして、市民参加型のディスカッションで生活費を考えるのであれば、この程度の時間のディスカッションでは圧倒的に時間不足である。かといって、長時間の拘束にたえられるような市民層というのは、「普通の市民」なのであろうか。土日の数時間に付き合ってもらうのもとても大変なのに。

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参加者が集まらない!!

稼働年齢層を対象とする場合、開催日は土日がよいかと考えた。ところが、意外と土日勤務平日休みの仕事に就いている方が多かった。休みの場合でも、すでに予定のある方も多かった。
せっかくプロジェクトに関心を持っていただいた方がいても、日程調整ができず、参加して頂けない方が続出した場合、参加者を集めるのに苦労した。
協力して下さった参加者には「偏りがある」、「日本社会の標準的な人とは思えない」、といわれれば「そうかもね」と言うしかない。
開き直りになるが、一体世の中に「標準的な人」なんているのだろうか?「標準的な人」など想定できないとすれば、参加者の特性による影響を考慮するより重要なことは別にある。
ぜひ他の「難関」を見てみてほしい。

参加者いろいろ

話合いのなかで、ある案が出ると、それに同意するパターンが多く、意見が対立する場面が少ない。参加者が、20代30代と、比較的年齢層は近かったが、初対面同士で意見をたたかわせるのは難しいように思えた。とはいえ、積極的に発言してもらえたので、決まった内容が一人だけの意見というわけではない。キャラクターの違いもあるのだろう。よく話す人、あまり話さずうなずくことの多い人など、発言の機会は平等でも、影響力には違いがあると感じた。

どう考えても時間が足りない・・・

最初に開いた「事例話合いグループ」は、10時~16時までとかなり長い時間を使わせてもらった。各費目の個数、耐久月数、金額について、かなり詳細に一つ一つ検討してもらえたという印象がある。それでも、話合いの時間は足りないように感じた。研究チームが、時間が足りないと感じたときに、議論を誘導していないか心配である。
他方で、稼働年齢の方にこれ以上の時間をもらう、長時間拘束して疲労させることを避けるために二度に分けて集まりってもらう、などすることをするのは難しそうである。今回の参加者も、普段は毎日残業していて、土日休みは休むことに費やす時間がかなりあるようである。そのなかで参加してくださった方々に深く感謝している。

どこでモノを買うのか?

「事例話合いグループ」も「確認グループ」でも、洋服について、それなりの格好をする必要があるから<全部ユニクロ>というのはあり得ないという意見で一致した。ブランド物のカバンが必要という声があって、ヴィトンを入れたが、コーチにしようという話合いの結果であった。化粧品についても、30代なのでそれなりのものをという意見あった。たとえば、参考価格には、「@コスメ」というHPの売れ筋ナンバー1というのを並べて紹介してみたが、こちらの方がよいという意見にはならなかった。

話す項目と順番はこれでよかったか?

話しあいの目安とした項目をもう少し生活感に根差して練ればよかったかなと考えている。

「コミュニケーション」と「日々の活動」

たとえば、パソコンやインターネットなどのツールは、ゲームなどと連動してそれ自体が娯楽・趣味の道具として捉えられることもある。たとえば、携帯電話のゲームを趣味として使う人の場合、そうではない人に比べて携帯電話の使用料金は高くなるはずである。そのすべてをコミュニケーションの費用とするのか、一部を趣味の費用とするのかは問われてよいことかもしれない。

「日々の活動」と「衣服」

趣味で用いる衣服と、通常の衣服を分けて議論させようとしたが、これはあまり望ましくないと感じた。たとえば、山登りや自転車などの趣味に用いる衣服は通常の衣服と兼用されることもある。あるいは、生活に必要なアイテムを思い起こす時、多くのひとはその保管場所を頭に思い浮かべているように思う。衣服に関して、趣味の衣服と通常の衣服を分けて収納していない場合、衣服は衣服として趣味の衣服も含めて挙げてもらったほうが議論しやすいのではないか。

「けんじさん」と仕事

「けんじさん」については、仕事内容が何かを決めないと話が進まないという意見が大きかった。「内勤」か「外勤」か、社食があるか、で昼食のあり方が違う、民間企業なら20時、21時まで残業するのが当たり前、という意見に皆が同意した。ひとまず、17時30分頃にはあがれるはずの公務員=「内勤」という設定にし、これを基本としながら、他の仕事に就いている要素も踏まえつつ、現実的で基礎的な範囲を定めることを作業の方針とした。洋服も、仕事用と私服用に分けて議論する。男性グループの話合いは、常に、どのような仕事についているか、その仕事がどのような勤務形態か、夜間勤務があるか、出勤時間は何時くらいか、などなど想定できないと、ほとんど議論を進めることができなかった

学生の感想

「単身で生活していたとしても男性の生活に家事労働は組み込まれてないのだなーと思いました。」

奢り/奢られ、交換や贈与はどこに入るのか?

「けんじさん」は、現時点で、週一回は飲み会&そのほかの外食を想定しており、総生活費が高めになっている。32歳というモデル年齢であって、パートナーとの関係を維持すること、後輩などに奢るといった人間関係を構築すること、毎食一人で食事をするのは寂しい、などの意見があってのことである。参加者としては、それが当然という意見が多数を占めた。
この意見は当然取り入れるのだとしても、逆に奢られる状況、ギブ&テイクのテイクを想定できないのはバランスが悪い。このために、生活費が高額になるとも考えられる。食べ物や衣服、プレゼントの交換など、与える方は想定できても返される方もらう方は、その量を想定できないため、表には入れ込めない。基礎的生活の「人間関係を維持できる」に鑑み、奢る費用を計上しているわけだが、奢られる場面を想定できないのは、正確さを欠くと感じる。

やっぱり数字が気になっちゃう

今回の、一つひとつモノを積み上げるという方法の強みは、中身が見える、ということだった。しかし、この強みが生かし切れているか疑問な面がある。
中身がわかることが強みだといいながら、最終的に計算される生活費=数字を重視してしまう。
最終確認グループでは、未決定の項目を明確にしたうえで、他所で行われている最低生活費の数値との比較をしてもらった。本調査は、他所より高い水準になっており、参加者もモデレーターも、もう少し低めに抑えようという意識が働いた面があったように思う。しかしながら、結果として、ほとんど水準は下がらなかった。それは、品目リストから削れそうなものがなかった、という極まっとうな理由による。洋服や食器のアイテム数でみても、家具の少なさから考えても、これくらいの見積もりは必要であろうというのが参加者の総意である。

一つひとつみれば、決してぜいたくには見えないのに、金額にしてしまうと、ぜいたくに感じてしまう額になる。

見落としたアイテムはないか?中身の大切さの再確認

あらためて、私たちが何を入れて、何を入れなかったのか、バスケットの中身を確認し、そこから生活の必要について考察を深めることが大切だと思う。

長いリストにみえて、入っていない項目もたくさんあるのではないか??
そこで、試みたプロジェクトがある。番外編「たろうくん」をご覧ください。

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MISという「くらしのもよう」の“元ネタ”について、ちょっと専門的な話です。

このHPで試みている基礎的な生活を考える方法を最初に開発したのは、英国のラフバラ大学Centre for Research in Social Policy (CRSP)とヨーク大学のFamily Budget Unit (FBU)の共同チームです。 HPがあって、方法や結果が詳しく掲載されています。英語のページですが、ぜひご覧になってください。
http://www.minimumincomestandard.org/index.htm

日本では、2010年、東京・三鷹周辺に住む人に協力して頂いたプロジェクトを実施しています。こちらは詳細なHPはありませんが、研究組織などの情報は、下記からご覧いただけます。
「国立社会保障・人口問題研究所年報 平成24 年版(2012 年版)」19頁以降

また刊行物として、『社会政策』第4 巻第1 号(ミネルヴァ書房)に、方法から結果を論じた文章が載っています。

英国で最初に試みられたプロジェクトは、Minimum Income Standard for the United Kingdom、とよばれ、以下MISとします。ちなみに日本では「最低所得基準」と訳されています。

MIS、その発想の源

MISは、ラフバラ大学とヨーク大学の研究チームのコラボによってつくられました。
それぞれの大学には、これまで開発してきた生活費の測定方法がありました。
ヨーク大学が得意としてきたのは、さまざまな資料、栄養や光熱費に関する専門家の知識、消費者への質問紙調査、生産者からの情報(物の耐用性など)、消費データや支出データなどを活用する方法です。 ラフバラ大学が得意としてきたのは、普通の人びとが話合って「合意」しつつ生活費の中身について決定していく、という方法です。

この二つの方法を組み合わせてみよう、というのが、MIS発想の原点です。
MISでは、市民からなる参加者が生活費の中身について話し合い、専門家(研究チーム)がかれらの決定についてチェックし、改善・修正のアドバイスするのです。
MISがイギリスで最初に実施した結果に関する報告書は、2008年に出されています。

詳細は、「プロセス」のページをご覧になってください。

MIS、その目的

MISを実施する最大の目的は、
政策が目標とする最低所得に関する基準を示す
というものです。

MISの最大の特徴は、市民からなる参加者がミニマムな生活の内容を話し合って、受け入れ可能な生活費を算定することにあります。これは、誰ひとりの生活もそれを下回るものであってはならないという水準です。

とはいえ、ちょっとわかりにくいのは、MISは、新しい貧困線でもなければ剥奪指標でもなく、何か不利な状況を定義するための概念でもないとされていることです。生活保護の基準、最低賃金、相対的貧困線、物価の推移などと比較することで、政府の施策が低所得世帯の人々にどのような影響を与えるかについて示唆を与えるのが目的だというのです。

それは、話合いの様子からも分かるように、同じような状況(性別・年齢・居住場所)にある人でも、みなが全くおなじものを必要とするわけではないことによります。それぞれの生活を考えると、このプロジェクトの結果表に、追加で必要となるモノ、要らないモノがあるでしょう。すべての個人にとって最低必要なモノ、所得水準を示すことはできない、というのが含意です。

だからこそ、市民参加によって、何が必要かを決めるだけでなく、なぜそれが必要かを話し合うことが肝要なのです。

私たちは、それぞれの生活を営む「専門家」です。でも、同じ社会の中で生きていて、みんなが必要とする部分もあるだろう、それってどんな部分なんだろう、というのをお互いの生活をもとに架空の個人について話合いながら考えてみよう、そしてその明らかになった部分は社会が保障する仕組みでありたい、と考えます。

とはいえ、MISって、そんなにいい方法なのか?疑いをもった方もいるはず。
そんな方は「番外編 教授のお話し」をご覧ください。
私たちが実施したプロジェクトについては「難関」と書かれた二つのページをご覧ください。

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研究チームは、社会福祉にかかわる問題に関心をもち調査、研究しているメンバーからなります。岩永理恵(神奈川県立保健福祉大学)と堅田香緒里(埼玉県立大学)の二名が中心となり、山口睦深さん、山下麻代さん、2011・2012年度当時それぞれの大学で学んでいた学生である木下ちはるさん、下西完奈さん、中島亜衣さん、根本奈央子さん、舟木正成さん、水間有紀さん、若山さとみさん、そして神奈川県立保健福祉大学教員の五味郁子さんの協力を得て実施しました。
なお、このページ作成を含む調査研究は、このページ作成を含む調査研究はJSPS科研費22530606を得ています。

この調査に協力してくださった参加者のみなさまに感謝申し上げます。

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私たち研究チームは、実際にプロジェクトを実施する前の2010年8月末から9月にかけて、MISに関係する研究や実践をおこなってきた人びとにヒアリングを行いました。

ヒアリングの日程と応じて頂いた方の一覧です。

訪問日 訪問先
8月31日(火)10時~ ヨーク大学Professor Jonathan Bradshaw
9月1日(水)10時~ ラフバラ大学CRSP Mr. Donald Hirsch
9月3日(金)10時~ ラフバラ大学CRSP Ms. Abigail Davis
9月6日(月)12時~ オックスフォード大学Professor Robert Walker
9月7日(火)15時~ Ms. Deborah Littman (the Trade Union Unison)
9月8日(水)14時~ ニューカッスル大学 Professor John Veit-Wilson
9月13日(月)9時30分~ Observatoire national de la pauvreté et de l'exclusion sociale (national observatory on poverty and social exclusion)

ヒアリングにあたり、あらかじめ訪問する方の著作や資料を読み、質問項目を用意し、さまざまなことをうかがいましたが、ここでは、私たちが当初から抱いていた疑問や実際に直面した「難関」に照らして、ご紹介します。


MISって、要するに「貧困線」ではないの?

この疑問に対する答えは人によってさまざまです。

教授Aは、MISを、貧困を裁定する基準と考えているようです。ただし、UKで貧困線=poverty thresholdは、政府が決定しているものがあり、MISよりずっと低い水準であるといいます。

教授Aは、貧困の定義と測定は区別すべきであるといいます。何か定義したものを操作化し、測定するには、たくさんの方法があります。MISはそのうちの一つで、生計費を計算するという方法です。この方法は、過去のラウントリーという人の業績と結びついて、絶対的貧困概念と関連するものとして理解されてきたといいます。このラウントリーの業績から離れて、ラウントリーの絶対的価値とは結びつかない基準生計費を策定するものとして、MISの意義があるというのです。

他方で、MISチームのメンバーによると、MISは貧困線ではない、といいます。なぜなら、イギリスにはすでに貧困線があり、貧困線とは何かについて安定した見方が存在するからです。MISは、貧困ではなく、受容可能な生活水準ということに関して人びとにたずねるものである。

両者の見解から、「貧困線」という言葉の理解が違って、MISを貧困線というかいわないか、変わってくるのだと分かります。

教授Bは、次のように言います。
貧困について考える方法はさまざまある、というのが一番よい回答だろう。とはいえ、もう少し説明しようとすれば、貧困研究者も、研究者集団も、みんな混乱している。なぜ混乱しているかといえば、貧困が政治的変化の道具立てになり、社会状況によって変化するからである。この二つ事象は、必ずしも同じではない。一般にイギリスの人びとは、貧困という語句を用いない。その理由の一つは、貧困とは悪い状態を指すためであり、もう一つは、貧困がイギリスに存在するかどうかよくわからないためである。後者の点は、言い換えれば、貧困が絶対的なものか相対的なものか、という議論である。タウンゼントの議論とセンの議論があるが、どちらも貧困とは社会現象社会的状況であって、経験的に現実世界のものとして理解しようとしている。この文脈のなかでMISは、十分だと評価できる線、線を引いてよいと判断する材料を提供するものである。

教授Cの考えは次の通りです。
MISとこれまの貧困研究との関係について。まず重要なことは、これまで「貧困」が意味するところが正確に合意されたことは決してないという点である。貧困を定義するには様々な方法があり、さらに20世紀に入ってからは、政府が「最低限」とか「公的扶助基準」などを開発したため、貧困線は混乱した状態にある。

人びとは、貧困について様々な見方をもっている。重要なことは、貧困とは何かが社会によって異なるという点である。タウンゼントが定義したように、さまざまな種類の選択肢、生活様式、慣習的な行動パターンなどをとることができない。MISは、この観点に立って、慣習的な生活様式をみようとしていて、そのなかでどの程度が許容可能かをグループ・ディスカッションするものである。

次に、完全に政治的な話であるが、政府がどの程度支払うか、という問題である。歴史をさかのぼると、ベヴァリッジ報告では、最低賃金の水準を決め、それより少なめで給付基準を決定した。この仕組みが、現在のイギリスの制度にも生きている。賃金について、さまざまな議論があって、生活賃金を獲得すべきだ、という議論もある。MISは、賃金と給付双方の議論を一緒に扱うという利点をもつ。

最後に、現在のイギリスでは、「The Spirit Level」という本をきっかけとして不平等に関する議論が盛んであるし、これまでに不平等が不健康と関連があることを示す研究成果が発表されてきた。そのなかで、どの程度の低所得が不健康やその他の良くない状況と関連するか示すのに、MISを利用することができると考えられる。

話合いは「合意consensual」に基づくといえるか?

MIS、もちろん私たちのプロジェクトでも肝心要は、参加者に話し合ってもらって必要なモノを一つひとつ「合意」しながら挙げていく、ということです。

しかし、具体的に話合いを進めてみると、どうなったら「合意」と考えてよいのかは、たいへん難しいです。

私たちは、MISチームのメンバーに対し、実際に話合いを進めていくとき、各参加者の「合意」をどのように確認するのかたずねました。そうしたところ「合意というのは満場一致を意味するわけではない。ある種の妥協がある」という話でした。話を進める研究チーム側の熟練が必要で、過去の調査で経験したことが役に立ったとのことです。

一方、教授Bは、次のように言いました。
MISがいかにして「合意」であると正当化可能であるのか。これには二つ回答がある。

MISの方法論では、多数派が何を考えているか、などみる必要はない。MIS取り組むのは、最低生活費を考えるに当り、なるべく幅広い人に関与してもらおうというものである。それも、ただ一緒に考えるというのではなく、一緒に作業する。現実世界では、様々な見方があっても、社会として共同している。すべての人が厳密に合意しているものではないが、結果には満足している。最低生活費を決めるのに、共同する場に人を集め、相互に関わり、共通点や共通した見方を明らかにさせるのが、MISの方法論である。

「合意consensual」というより、どちらかといえばnegotiated budget standardというイメージだという。本当の「合意consensual」ではないが「折り合いnegotiation」をつけることはできる。この点から、あなたたち(注:私たちの研究チーム)が主張したようにMISは結果より過程が重要だ、という意見に賛成だが、皮肉にも研究費を補助している財団は結果を重視している。そうすると、質的調査は量的調査より劣っていると考えがちな政策策定者らにどう反論するかが問題で、MISチームの関係者は結果の出し方に苦慮したであろう。

さらに、教授Cのお話は次のような具合です。
MISがいかにして「合意」であると正当化可能であるのか。MISは、まず所得(income)ではなく、最低限(minimum)をたずねるものである。それは、所得からはじめると、市場化されていない物は入手不可能であり、議論の対象とならないからであり、モノについて話す方が、参加者やから多様な回答を引き出せるからだ。

「合意」とは、参加者が形成したグループの中の話である。議論した結果が、何か(たとえば所得保障の政策)を議論するたたき台になるわけではない。MISが企図された理由は、イギリスにはすでに貧困線――大多数の60%水準――があり、普通の人びとがこの60%の中身にどういうモノが含まれると考えているか、明らかにすることにあった。

「合意」というのは、相対して話し合うことで得るものである。MISが、国民の「合意」にもとづくというには、仮想的だが、グループ・ディスカッションを無数に重ねていくことになる。仮にそのようなことができたとしても、階級の違いという問題にぶつかる。これは政治的な問題であり、今十分な資源を持っていない人への再分配の話をする必要が生じる。これはMISでは扱いきれない。

MISのインパクト

教授Aによると、MISに「合意アプローチ」を導入することで、算定した生計費にいくらか民主的な正当性を付与することに成功したとのことです。しかし、本当に民主的な手法とは言えないとも言われました。わずかな人びとが集まって、考え、議論したものであるからです。そして、政策的にも大きな影響を与えたとは言えないと言います。

とはいえ、実際にやってみて実感しましたが、このプロジェクトはたいへんな時間と人手がかかるたいへんなものです。MISは、実施費用をJoseph Rowntree Foundationという財団から得ていますし、成果を広く社会にアピールすることは不可欠です。

MISチームのメンバーは、このことを十分意識し行動しているように見えました。
アピールの仕方はいろいろあるようです。

  • MISという具体的内容をもつ最低所得基準は、11世帯類型あって、イギリス全世帯の78%をカバーし、これらの基準は、社会の基準点、具体的には(1)貧困線、(2)所得保障、(3)賃金、のベンチマークとなる!
  • MISは中身が明らかなため、その内容に応じたインフレ率を掛け合わせ、アップデートできる!
  • MISの結果をもとに、income calculatorという計算ソフトを開発し、人びとが自分の最低所得を計算できる!
  • イギリスに住む人全員が、MIS水準で生活して削減される二酸化炭素がどれくらいか試算し、環境問題への示唆も与えられる!

一方、MISチームが所属しているCRSPは調査機関であるので、あまり学問的議論に焦点を当てていない、という答えもありました。

賃金への影響という点については、賃金とMISという項目をご覧ください。

賃金とMIS

MISは、賃金のベンチマークになることも目指しています(MISのインパクト、を参照)。実際、UNISONという公共労務者を組織する労働組合がMISに関心をもっていました。UNISONの調査研究部門に所属している方に、MISに関心を持った理由、どのような有効性があるとお考えか、お話をうかがいました。
UNISONは、民営化された公共サービス部門、清掃や料理の提供などに従事する、最底辺の賃金労働者にも関心をもっている組織です。UNISONがMISに関心をもった経緯は、1999年までイギリスには最低賃金がなく、最低賃金キャンペーンに関与したことにはじまります。1997年から1999年に、はじめての最低賃金らしきものが設定されたのですが、それは男性稼得中央値の半分で、3.6ポンドでした。これはあまりにも低いと思われましたが、低いことを明確にする尺度が必要でありました。これが、MISに着目するそもそものきっかけでした。

他方で、UNISONとは別の運動の流れもありました。The East London Community Organization(TELCO今はLondon Citizens)という、協会やモスクや学校などが連携したコミュニティ組織です。TELCOは、アメリカのIndustrial Areas Foundation(IAF)という組織と関連があって、この組織は「生活賃金キャンペーン」をはじめていました。影響をうけて、TELCOは生活賃金キャンペーンをはじめていました。2001年のロンドンでの最低生活費を策定してほしいとFBUに依頼したのです。2004年のロンドン市長選では、の最大の焦点は生活賃金でした。生活賃金を一番に掲げることで、コミュニティにおける住宅、医療、教育の貧しさや犯罪、コミュニティからの排除が関係していることを理解できたのです。

このキャンペーンにUNISONも加わって、市長選の候補者に、市長になったら、ロンドンの生活賃金を計算するユニットを立ち上げ、その計算した賃金を労働者に支払い雇用者に支払うよう促すかたずね、すべての候補者の答えはYesであした。そしてKen Livingstonが市長になった。そこでLondon CitizenやUNISONは、市庁舎で生活賃金策定のチームを組みました。そのチームは、彼らがマーケット・バスケットとよぶものを用いています。ただ、そのやり方は少し奇妙で、MISを用いるよう助言しているが、彼らはまだ自分たちの方法に固執しているといいます。とはいえ、ロンドンは自前の生活賃金を持っていて、市長の責任の下にある組織で働く誰にも、その額が支払われなければならないことになっています。

フランスでもMISを実施するか検討中~

フランスでは、「貧困と社会的排除に関する国立観測所」(以下、観測所)に所属する三氏から話をうかがいました。同機関の説明は、国立統計経済研究所のウェッブサイトにあります。

排除に対する法律にもとづき1998年に設立し、不安定、貧困、社会的排除やこれらに関係する政策に関する情報や資料を収集、分析するという任務のため、1999年7月に設置されたものである。観測所は、ワーキングペーパーや調査、評価差促成について、特定された予算をもっている。外部の資格をもった22名を構成委員とした完全参加の会議を少なくとも月に一回開催する。毎年、政府や議会に報告書を提出する。

なぜMISに関心をもち、どのような有効性があると考えているかについて話をうかがいました。フランスでも、これまでさまざまな貧困に関する調査がおこなわれてきて、直近では、2006年にlife standardという調査を実施しました。これは、対象を貧困者とした参加型の手法をとり、何が必要ではなく何が欠けているかについて明らかにしようとしたものです。反貧困、対貧困援助団体、スープキッチン、政府機関が運営する若者に対する職業紹介所に協力を依頼、5・6回のインタビューを実施し、9000世帯に66項目のテーマに沿い、どういうサービス、モノが必要で、今、何を我慢しているのか聞きました。

どういうものを我慢したかによって、いかなる貧困のカテゴリーに入るかどうかを測ったのです。この調査は、貧困について知ること、貧困者への経済不況の影響を明らかにすることに目的がありました。しかし、人びとは、自分たちが解決しなければならない問題を語ろうとし、深刻な状況を明らかにすることが難しく、さらにいえば、貧困者が何を必要としているか定義することはできない調査でした

そのようななかで2008年にMISがあることを知り、フランス政府の統計局も関心を持ち、詳しく方法論を聞く機会をもちました。しかし、フランスで実施するには、いくつか問題があると考えました。たとえば、一般の人が参加するという点が重要であることはよく理解できたが、その相互作用という重要な点についてよく理解することができなかった。もう一つは、かなりの時間と労力がかかる研究だという点である。10~20人の人で運営したのかと思いきや、3~4人で運営したと聞きたいへん驚いた。そこで、自分たちに実施可能かについては、まだ検討しているところだそうでした。

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内容

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多くの方にたいへんお世話になっています。

研究の進行に多大な時間を割いてくださった、五味岳さん、保坂ゆり恵さん、増田桂子さん、 素敵なホームページ作成を作成してくださっている石垣真里子さん、 ヒアリングにご協力くださったイギリス、フランスのみなさま、 人集めにご協力くださった株式会社ぱどのみなさま、 日ごろからお世話になっている、大岡華子さん、田中暢子さん、鳥山まどかさん、
ありがとうございます。

また、私たちの研究は、最初にMISを日本で試みた、厚生労働科学研究費補助金 政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)「貧困・格差の実態と貧困対策の効果に関する研究」のメンバーである、岩田正美さん、阿部彩さん、卯月由佳さん、重川純子さん、山田篤裕さんと福山洋子さん、進藤理恵さんたちの多大な手間ひまをかけた研究業績の上に成り立っています。

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